「ヤマネコ号の冒険」を読んで以来の野望でしたが、2年前に、やっと、かなえることができました。
ヤマネコ号の航海
ヤマネコ号の冒険
「ヤマネコ号の冒険」は、アーサー・ランサムの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズの第3巻です。湖水地方を舞台とした1, 2巻とは異なり、「ヤマネコ号の冒険」の舞台はカリブ海。子供たちは、フリント船長と老練な水夫であるピーター・ダックといっしょに、ヤマネコ号に乗りこんで大西洋を横断し、カリブ海のカニ島まで、宝探しにでかけます。
航海の楽しみ
「ヤマネコ号の冒険」は、スティーブンソンの「宝島」のような、海賊の残した宝をめぐる、どきどきの冒険小説なのですが、実は、私がこの本の中で一番好きなのは、彼らが冒険を終えて、イギリスへと帰還する部分です。
ランサムは、宝を手に入れて「めでたし、めでたし」で終わらせないのです。カリブ海から大西洋を横断して、イギリス海峡を通り、最後に、出航したローストフトの元の桟橋に停泊するまでがきちんと書かれています。
行きは、宝を横取りしようとするブラックジェイクのマムシ号に追いかけられていて航海を楽しむどころではなかったので、彼らは帰りの航海を本当に楽しんでいます。規則的なワッチ (当直) を守り、毎日のルーチンをこなして、淡々と船を進めて行く。
だんだんとイギリスが近づき、短くなっていく旅程を惜しみ、この航海が、いつまでも終わらなければよいのにと願ったことだろうと思います。
イギリス海峡
イギリス海峡の入り口まで帰り着くと、彼らは向かい風の中、イギリス沿岸を間切りながら、ローストフトまで帰って行きます。その途中、有名なシーシャンティである「スペインの淑女」の歌詞に読みこまれている岬や半島を、一つ一つ実際に自分たちの目で確認しながら。
はじめにめざすはドッドマンの岬。
つづいて、プリマスのレイム岬、スタート、ポートランド、ワイト島
ビーチー、フェアライト、ダンジネス
子供達の一人であるティティが最後に、「私たちだけで、歌に出てくるところを、ほんとうに見たわね。」と満足そうに言うのです。
ヤマネコ号について
艤装
ヤマネコ号は、二本マストのスクーナーです。帆は7枚。本の中には書いてありませんが、多分、70フィートくらいと思います。
ピーター・ダックによると
「小さいが、しっかりした丈夫な船でさ、この船は。」
「おとなふたりと男の子がひとりいりゃ、どこへでもいけます。」とのこと。
マストの上の方にある三角形の帆のことをトプスルと言います。高い位置にあるので、これをあげると、ぐんと船の速度があがるのです。
内装
ヤマネコ号は、もとはバルト海の貿易船でした。フリント船長が、燃料とジャガイモの置き場だった船倉をサルーン (食事をとったりするスペース) と2つの船室に作り変えました。
もとからあった2つの船室と合わせ、船内に4つの船室ができました。それぞれの船室には、2つずつの寝だながあります。甲板室にも2つの寝だながあり、ここはフリント船長とピーター・ダックの寝場所となりました。
こんな風に、船の由来まできちんと設定するのがランサム流。バルト海と言えば、ランサムがラカンドラ号で航海したところですね。ランサムは、ラカンドラ号から、こんなスクーナーをたくさん見かけたのかもしれません。
スクーナー型の貿易船というとインドネシアのピニシを思い出します。
野望のかなえ方
Step1: 野望の詳細をつめる
イギリス海峡を西側から「スペインの淑女」の歌詞に読みこまれている岬や半島を自分の目で確認しながら、端から端まで航海したい。白いFRP製のボートではダメで、ヤマネコ号のような木造船。
そして、ただ乗せてもらうだけではなく、彼らのようにクルーの1人として働きたい。あまり大きい船だと、自分で動かしている感じがしないので、50〜80フィートくらいまでの大きさで。
Step2: 船を探す
イギリスには、昔ながらの帆船が何隻も保存され、現役で動いています。大きさや形も様々。初心者向けのデイクルーズから、数ヶ月の長期航海、帆船レースなど、それぞれの船が、その船の個性を生かしたプログラムを提供しています。私は、このサイトから理想の航海を探しました。
Classic Sailing には、38フィートのカッターから213フィートのバークまで、さまざまなサイズやタイプの伝統的な艤装の帆船が登録されていて、帆走したい地域と期間を入力すれば、航海の候補をリストアップしてくれます。
Classic Sailing に登録されている航海は、資格取得用の訓練航海を除き、どの航海も乗船経験は不要です。乗船者は、クルーとして自分の出来る範囲で船の仕事をさせてもらえます。
Step3: 乗船申し込み
Classic Sailing のサイトから、イギリス海峡を航海するプログラムを提供している船を探します。いくつもの魅力的な航海がありましたが、その中から、Maybe という78フィートのガフケッチでの8日間の航海に申し込みました。
9/18にアイルランドのコークを出港し、シリー諸島に立ち寄った後、9/25にポーツマスに入港。
ワイト島までだけれどイギリス海峡を航海できるし、アイルランドにはまだ行ったことがないし、シリー諸島に行く機会なんてそうそうない。これは、絶対楽しい!
思いがけないチャンス
MaybeはMaybeだった
9/1にMaybeの担当者から「参加希望者が少ないため、コークからの航海は、残念ながら変更になりました。」とのメールが届きました。北海沿岸の航海に変更になったとのこと。
うーん、やっぱり船名どおりMaybe だったか。
参加者が少なくて航海の内容が変更になるのは、よくあることなので、まぁ、しょうがない。イギリスに住んでいるのであれば、今回はキャンセルして別の日に変更すればよいのでしょうが、私は、日本からの参加で、既に航空券をとってしまっているので、日程変更はできません。そのため、代わりに乗ることができる船を急いで探しました。
RYA Day Skipper 講習に参加することに
Classic Sailing のWebサイトから探してみると、私がイギリスに滞在している期間に乗船できるイギリス海峡での航海が1件だけありました。
しかし、通常の航海ではなく、RYA (王立ヨット協会) のDay Skipperコースでした。Day Skipper コースは、初心者スキッパー (船長) 向けの講習です。受講にあたって必要な資格や条件はありませんが、クルーの一員として活動するために十分な知識、技術を持っていることが前提とされます。
私の帆走スキルと英語力で講習についていけるか不安がいっぱいでした。でも、乗船できる航海はこれしかないので、思い切って申し込んでみることにしました。
スタート岬を越える
乗船した船は、ブリクサムをホームポートとしているGolden Vanity。53フィートの木造ガフカッターです。
講習は、9/19から9/25までの1週間。ブリクサム周辺の海域を航海しながら、講習生が1日ずつ順番にスキッパー役を担当します。航海計画を策定し、船上で指示をとばし、1日の航海をやりとげて、スキッパーに必要なスキルを身につけてゆきます。
私は、3日目にスキッパー役を担当し、ダーマス (Dartmouth) から、スタート岬を越えて、20マイル先のサルコム (Salcombe) まで航海しました。50フィートの船に3枚の帆をあげ、クルー役の講習生達をこきつかい (一体、何回タックさせたことか!) 、イギリス海峡の海を航海するのは、すばらしい経験でした。
この記事の冒頭の写真は、スタート岬の灯台です。イギリス海峡を端から端まで航海することはできなかったけれど、少なくとも「スペインの淑女」に出てくるスタート岬を海から眺めることはできました。
Maybeの航海がキャンセルされなかったら、Day Skipper の資格に挑戦しようなどとは絶対に考えなかったと思うので、まさに、思いがけないチャンスでした。
Day Skipper講習の詳細については、こちらから。
onthewaters.hatenablog.com