On the Waters

帆船のことや、ヨットのこと

ノーフォークの川をティーゼル号で帆走する (3) 橋をくぐる編

4日目は、ポッター・ハイムの橋をくぐって、ヒックリング沼まで。ヒックリング沼では、最高のコンディションに恵まれて自分たちだけで帆走。6日目の最終日には、強風の中Hunter's Yard へと戻り、一週間の航海は終了です。

航海日誌

4日目

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橋をくぐる

今日は、ポッター・ハイムの橋をくぐってヒックリングまで行きます。9:30にビッキーが船にやってきて、「今すぐ出られるなら、ポッター・ハイムの橋をくぐるのに、ぎりぎり間に合うけど」とのこと。「もちろんですとも。」昨日のうちに潮は調べてあるので、準備は万端です。
今日のスキッパーは、Hunter's Yard のスタッフのイアン。 念のために船外機を乗せたディンギーをひいて、9:30にHunter's Yardを出発しました。
ウォマック水路からサーン川にでると、向かい風でタックになりました。サーン川の上流へは初めて向かいます。一面葦だったビュア川の川岸とは異なり、川の両岸には、サマーハウスのような可愛らしい家が並んでいます。川幅もそれほど広くなく、後ろにはディンギーもひいているのでヘルムはイアンが担当。
後ろにディンギーをひきながらタックで進んでいくのはとても気を使うのですが、ディンギーが両岸の家や係留されているヨットにふれることは全くなく、ぎりぎりをすり抜けてゆきます。本当に、神業としかいいようがない、見ていて信じられないような光景でした。

11:00過ぎに、ポッター・ハイムに到着。橋の手前には、ヨットがマストを倒す時だけに使うことができる係留場所が用意されていました。係留場所では、何人かが釣りをしていたので、移動してもらうのは申し訳ないなと思っていたら、この場所はヨットが優先なので気にしなくていいんだとイアン。確かに。立て札がたっていて、それにはヨットが入ってきたら釣り師は場所をあけるようにとはっきり書いてありました。

係留場所にとめて、帆を降ろしました。ブームをささえるクラッチは、通常の係留時のものと別に、橋をくぐる時用の高さの低いものがちゃんと用意されています。さて、いよいよマストを倒します

1. まず、ガフのジョーをマストからはずし、ガフをブームの隣におきます。

2. 次に、フォアハッチをあけて、カバーを片側に置きます。マストの根元の留め金を外します。(この時にフォアステイを少し緩めるとラクにぬける。)

3. 1人がフォアステイのクリートをはずして端を手に持ちます。

4. もう1人がシュラウド (サイドステイ) をおし、それに合わせてフォアステイ担当がフォアステーをくりだしてゆくと、ゆっくりマストが後ろに倒れてゆきました 。

5. マストをクラッチの上にしっかり乗せたら、シュラウドとハリヤードを集めて、じゃまにならないようセイルタイでとめます。

想像していたよりもずっと簡単でした。

上げ潮なので、潮にのってさおで橋をくぐれるとのこと。イアンがさおを担当し、友人が緊張しながらヘルムを握って、慎重に橋に近づいていきます。注意すべき点は、橋の真ん中を通るということ。橋の下ではさおが使えないので、さおで1かきして橋の下にはいったら、もうできることはありません。絶対無理と感じられたぎりぎりの空間をすうっと越えて、どこにもぶつからず、どこもこすらず、あっという間に反対側にいました。その後、続いてのニューブリッジは、イアンが橋の裏側を手で押して、難なく抜けることができました。ヨット用の係留場所に係留して、ほっと一息。「オオバンクラブ物語」では、ティットマウス号で引っ張っていたので、てっきりエンジン使うものと思っていましたが、順潮だとさおだけでくぐれてしまうんですね。

帰国してから、「オオバンクラブ物語」を確認してみたところ、彼らは行きはティットマウス号で曳航し、帰りはさおを使っていました。彼らは、行きは逆潮、帰りは順潮だったようです。

ポッター・ハイムを過ぎるとお店はないため、近くのスーパーマーケットまで食料品の買い出しに行きました。買い込んだ食料品を、イアンといっしょに船の引き出しに詰め込んでいる時に、「牛乳は、ガスボンベの脇にしまうんだ」と教えてもらいました。気化熱でボンベが冷えるから、冷蔵庫がわりということのようです。イアンはとっても無口で、さらに理論的に操船を教えるということは得意ではないらしく、いっしょに船に乗っていてもほとんど話をしないのですが、Hunter's Yard でずっと働いているので、Hunter's Yard の船のことにはとても詳しいのです。彼の言葉や態度の端々から、船をとっても大切に思っていることが伝わってきて、彼といっしょに帆走できたのは、とても楽しい体験でした。

ヒックリング沼へ

まだ、1/4くらいまでしか来ていないのに、すでにお昼過ぎです。買い物をしている間に、満潮をすぎたので、午後からは潮は逆になります。

サーン川をのぼり、ヘイガム・サウンドへ向かうケンダル水路に入ると、イアンは係留してきたボートに船外機をつけて、ヨットを後ろから押しはじめました。エンジンつきのボートでひっぱるのかと思っていましたが、そうではなくて、ヨットの後ろに船外機つきのボートを結びつけて、ヨットを押すのです。そうするとボートの上に人が乗る必要がなく、ヘルムにいる人はエンジンつきのヨットに乗っている感覚で1人で操船することができます。さすがに遅くなっちゃったから、ここからはエンジンでもしょうがないかなと思っていたのですが、意外にも、細い水路を抜けたらエンジンをとめて、また完全帆走に戻りました。潮が逆だし、水路は完全に向かい風なので、細い水路の部分だけエンジンを使ったということでした。

ヘイガム・サウンドを進み、ヒックリング沼に入ると、赤と緑の柱で示された航路をタックで進んで行きます。係留場所は沼の一番奥です。風が弱いので本当にちょっとずつしか進みません。もう14:00。イアンはお腹すかないのかしら、申し訳ないなぁと思っていたら、やっと「エンジンを使ってもよい?」と言ってくれて、1も2もなく、賛成しました。本当に、私よりもエンジンを使いたがらない人に、初めて会いました。エンジンを起動して、ヒックリング沼の残りの行程をあっという間に抜けて、係留場所へ。

無事係留すると、イアンは「ボートは残しておくし、オールも持ってきたから、これで沼を探検するといいよ」と言い残して、船外機だけ持って帰って行きました。この後どうするの?と聞くと、Hunter's Yardに戻るとのこと。お迎えの車を待っているイアンに、Yard までは車でどれくらいかかるの?と聞くと、ちょっと言いにくそうに “ Ten minutes” 。船で4時間かかった距離が10分か。確かに、道路を通ると、とっても近いのです。

5日目

ヒックリング沼で帆走

今日は、1日私たちだけでヒックリング沼で帆走して過ごす予定です。朝起きると、西よりの風で、風もそれほど強くありません。これだったら、ヒックリング沼の水路を行きも帰りもアビームで帆走できます。ということで、1日、ヒックリング沼の水路をいったり、きたりしました。途中、沼からでてゆく誘惑にたびたびかられましたが、沼の外の水路を見ると全く風はなく、午後からは潮も逆なので、なんとか思い止まりました。

ヒックリング沼では、いろいろなヨットが帆走を楽しんでいて、それらの船を眺めるのもとても楽しかったです。後、私としては、帆走しながらお茶を飲むというのと、帆走しながらオーブンでパンを焼いて昼ごはんを食べるという野望を実現することができて、大変満足でした。

6日目

橋をくぐる2

朝、9:30にイアンが船に来てくれました。今日は、風が強く、南寄りなので、係留場所から出るときには間切っていかなくてはいけません。私たちだけだったら、絶対に出航見合わせです。昨日は、風が完璧だったなぁと改めて感謝。午前中は上げ潮なので、私たちにとっては逆潮です。ヒックリング沼をでてからは、向かい風になり、たまにタックを失敗したりしたのですが、風がよかったため、1時間でポッター・ハイムまで着いてしまいました。タックに失敗して止まってしまった時に、私たちは、すかさず、さおをとりだしたのですが、イアンはまったくさおを使わず、岸の葦をつかんで船をまわしてしまいました。ノーフォークならではだなぁと感心。

ポッター・ハイムに着くと、風上側の岸に係留してマストを倒します。今回は、潮が逆なので、エンジンを使うとのこと。エンジンを使う分行きよりもラクかと思いきや、満潮の時刻だったので橋の下の高さが本当にぎりぎり。マスト下の重りをはずすマストをクラッチからおろすといった船の高さを低くするための裏ワザを駆使してなんとかくぐりました。

マストの下の重りは、マストを倒した時には、こんな風に倒したマストの上に乗っている形になります。

高さを低くするために、この重りを外します。重りは、薄い板を何枚か重ねてあり、一枚ずつはずすことができます。

さらに、マストをクラッチの上からおろします。

マストがクラッチの上に乗っている状態。ブームとマストの間に少しすきまがあります。

マストをクラッチからおろした状態。高さが少し低くなりました。


本当にぎりぎり!


橋を抜けた後、10分ほどエンジンで走り、水路脇の柳の木の下に係留しました。ここは、あとから調べたところ、「オオバンクラブ物語」にでてくるパグストリートの場所でした。

航海の終わり

マストをたてて、1ポイントリーフで帆をあげて帆走を始めましたが、そこからも今回のクルーズで一番の強風が続きました。かなりヒールして、デッキが水をかぶりそうになっていたのですが、さすがにみな慣れたようで全く冷静でした。

お昼過ぎにはHunter's Yard に着いてしまい、今回のクルーズがこれで終わってしまうと思うとなんだかもったいないような、でも、ほっとしたような気持ちでした。後から考えたら、あの時ディンギーを借りて、午後からセーリングしてみればよかったなぁと思ったのですが、その時には思いつきませんでした。

遅いお昼を食べて、シャワーを浴びて、暮れてゆく夕日とHunter's Yard のキャビンヨット達を眺めながらのんびりと過ごしました。潮のことと風のことばかり考えていた一週間。とても楽しかったです。